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映画『シビル・ウォー』と大統領選

ξ

2024/3に公開された映画『シビル・ウォー』が、日本でも10月に公開された。

アメリカ50州のうち19州が長期に居座る大統領の独裁に反抗し分離独立しようと起こした内戦の真っ只中で、それを凝視し続けるジャーナリスト目線の戦争物語である。

アメリカの(架空の)内戦を題材にしたドンパチの戦争アクションでもなく、なぜアメリカに内戦が起こったのか、どうしたら内戦を防ぐことができたのかと突き詰めていくストーリーでもなく、ジャーナリストたちが、今そこにある内戦を凝視し「成長」していくというようにできている。

 

アレックス・ガーランド監督は次のように述べている。

 

ジャーナリズムへの攻撃は危険だ。

ジャーナリズムは政治の腐敗から私たちを守るものだからだ。

もし弱ければトランプのような大物が権力を持つ。

大統領は、かつて国民との会話のために新聞、雑誌、テレビを必要としていた。だが今は必要ない。・・・・

(しかし)公的な誠実さや法の支配、選挙や民主主義を尊重せず、ジャーナリズムを弱体化させるなら深刻な問題が起きるだろう。

https://www.youtube.com/watch?v=otMXL0xn3sk

 

ガーランド監督には、明らかにトランプの政治手法や、プーチン専制独裁のため憲法改正までした史実が脳裏にある。

またジャーナリズムとジャーナリストが(それらを報道するだけなのに)弾圧され、数知れず殺害されてきた史実も踏まえている。

 

ξ

この9月に実施されたギャロップ社の世論調査では、共和党民主党の支持者の間で、(予想どおりというべきかもしれないが)重要問題の上位5項目は、まったく異なっている。*1

 

共和党支持者の「極めて重要な」問題>

①経済

②移民

テロリズムと国家安全保障

④犯罪

⑤税金

 

民主党支持者の「極めて重要な」問題>

①米国の民主主義

最高裁判事候補者

③中絶

④健康管理

⑤教育

https://news.gallup.com/poll/651719/economy-important-issue-2024-presidential-vote.aspx

 

トランプ側は、マスメディアやハリス側から虚偽と批判されようがシロクロ明快な分かりやすいストーリー有権者を引きつけていく過激主義(extremism、その象徴はMAGA!)に徹しているように見える。

こうして現時点、白人男性ばかりでなくヒスパニック系男性、黒人男性も、明快なマッチョ・イメージを持つトランプに傾いている。

 

だからハリス側にとって、そのヒスパニック、黒人(特に男性)の取り込みが選挙活動の重点になっているそうである。

ハリス側の主張を聞いていると、一つずつトランプ側の欺瞞を知的・合理的に冷静に訴えていく方法を続けているように見える。

その分、ハリス側の選挙活動はエネルギーの欠如(the lack of energy)がしきりに言われている。

 

ξ

アメリカ内戦という衝撃的な映画表現が、真近な大統領選に影響を与えるものなのかどうかは分からない。

トランプ支持者は、反トランプのプロパガンダ映画のように受け取ったかもしれないし、ハリス支持者には、「公的な誠実さや法の支配、選挙や民主主義を尊重」することを訴えたものとして好ましく映っただろうか。

 

しかしこの映画にどこか漂う白人中心社会へのノスタルジアどう見るだろう。

 

この映画の中に、アメリ(人)アイデンティティを問うシーンがある。

 

What kind of  American are you ?

(で、おまえは、どういうアメリカ人なのか?)

 

こういう問いは、どうしても、アメリカの人口構成の少数派に転落していく白人層固有の切羽詰まった問い詰め方と思わざるを得ない。

新たな移民である有色人種から出てくる問い詰め方とは到底思えない。

 

 

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秩序だった誇りと繁栄の白人の国であったアメリカは廃れ、ヒスパニック中心の非白人が支配する国になるのではないか?

黒人に対する積極的差別是正措置アファーマティブアクション、大学入学などの黒人に対する優先枠)や、D.E.I(個人・組織の多様性、公平性、包括性の尊重)など、ふざけるな、というほかない!

 

この漠然とした転落恐怖による anger(怒り) and mourning (嘆き)は、他者の殲滅欲求となって、この内戦映画にリアリティを与えていると思える。

 

ξ

当然、日本でも人口減少する「日本人」と、増えつつある非白人の外国人との関係の構図は同じようになる。

つまり「日本人」がアメリカ人に重ね合わせることのできるシンパシーの根幹は、実は、ヒスパニックでも黒人でも、同じアジア人でも無く、まぎれもなく少数派に転落していく白人に対してである。*2

 

衆議院選で話題になっている川口クルド人問題も、いずれ全国的な(不法)移民問題に拡がっていく。

(2024.10.16)川口クルド人問題、突如衆院選争点に浮上「私におまかせを」埼玉2区、全く触れない候補も 「移民」と日本人

www.sankei.com

 

その時、減少する「日本人」として、固有のアイデンティティなるものは存在するだろうか。

 

What kind of  Japanese are you ?

 

それとも「日本人」のアイデンティティなどという問題意識自体が、せせら笑いの対象になるほど「日本人」はシラケてしまっているだろうか。*3

 

 


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